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季節は春を迎え、羊たちが親子で草を食む姿は見る人の心を和ませてくれます。
しかし、当の羊たちにとってこれからの放牧期は、なかなか油断のならない時期です。おいしい青草には寄生虫の卵が隠れているかも知れないし、陽に当たり過ぎて熱射病で倒れることだってあります。そして本州以南の羊にとっては、蚊にチクリと刺されて腰麻痺という厄介な病気になる心配もあります。
日本のいたるところに羊がいた頃、夏に腰麻痺による損耗をいかに少なくするかということは畜産上の大問題でした。羊の頭数が減るとともにこの病気の重要性も薄れてきたかのようですが、腰麻痺という病気が無くなったわけではありません。せっかく羊を導入しても腰麻痺で死なせてしまい、なかなか頭数を増やすことができないといった話を、いまでも耳にします。最近新しく羊を手がける人たちは、北米やオーストラリア・ニュージーランド等先進地の技術情報を得ていますが、腰麻痺は日本及び朝鮮半島など極東地域に限定された病気ですので、改めて紹介したいと思います。
どんな病気か?
腰麻痺は脳脊髄糸状虫症、脳脊髄セタリア症とも呼ばれるように、指状糸状虫Setaliadigitataが羊や山羊に寄生することによって、運動機能障害や麻痺などの神経症状が現れる病気です。年齢、性別や栄養状態にかかわりなく発生し、跛行や起立困難、顔面の麻痺、舌や耳の脱力、斜頸といった症状が突然起こります。症状が悪化するのも早く、朝元気に放牧地へ出て行った羊が、昼に少し歩様がおかしくなり、夕方には全く立てなくなったというのは典型的な例です。いつもよりは元気がなくなった様に見える例が多いのですが、稀には旋回運動をしたり、壁に突進するなど興奮状態を示すこともあります。
このように神経症状が出たときにも、大抵は体温や脈拍、呼吸数に大きな変化は見られず、食欲もあり、排尿や排便にも支障がありません。症状が出た時点で適切な治療を施した場合、機能を快復することもありますが、数週間から数カ月にわたり何らかの後遺症を残します。麻痺症状そのものが直接の死因になることはないのですが、運動機能障害からの転倒事故が起きたり、立てない状態が長く続くと栄養失調や感染症に陥り易く、段々と衰弱して死に至ることが少なくありません。
何故起こるのか?
原因となる指状糸状虫は広く日本国内の牛に寄生していますが、本来の宿主である牛に対してはあまり障害を与えることがありません。成虫は牛の腹腔内にあって、子虫を血液中に産出し、蚊(シナハマダラカ、トウゴウヤプカ、オオクロヤプカ)の吸血によって伝染していきます。子虫が他の家畜に対して感染力を持つためには、一定温度以上で一定期間、蚊の体内で発育する必要があるので、感染は盛夏の蚊が出る時期に限定されます。従って、腰麻痺の発生はその約1カ月後から、東北地方であれば8〜10月になります。暑い地域での発生が多かったり、北海道で発生がないのは、気温条件の違いによると推察されます。
子虫は蚊の体内を移動しながら約2週間を過ごし、感染力のある成熟子虫(長さ2,200〜2,700μ)となって口吻の位置に出てきます。この時、牛以外の非固有宿主(羊、山羊、馬)の体内に入ると血流に乗って移動し、筋肉や結合織で成長しますが、成虫にまで発育することはありません。長さ1〜3cmに成長した幼虫が中枢神経等に迷い込み、組織を破壊することによって腰麻痺が引き起こされます。機能障害の現れ方や症状の重さは、体のどの部位を支配する神経が破壊されたか、どの程度破壊されたのかによって異なります。指状糸状虫に感染した羊すべてが腰麻痺の症状を現すわけではなく、無症状のまま経過して体内から子虫が消失していくことの方が多いので、症状の出た羊は運が悪いともいえます。
しかし、症状の出る確率は予測がつきませんから、去年は1頭だけだったとしても、今年は何頭も腰麻痺で倒れるかも知れません。たまたま症状の出た羊が、交配に使う予定の種雄だったり、双子ばかりを分娩していた母羊だったとしたら、被害は甚大です。
どうやって予防するか?
腰麻痺の予防には駆虫薬を使います。指状糸状虫の子虫が羊の体内に入ってから腰麻痺の症状が出るまでは、2週間から数カ月、一般的には20〜30日間かかるとされています。そこで、蚊の出る期間、定期的に駆虫薬を投与し、脳脊髄に迷い込む前の虫を殺すのです。駆虫薬の一覧を表に示しました。
内服薬は特別な器具がなくても飼料や水に混ぜて投与することができますが、多頭数の場合には注射剤を用いる方が確実で手早いでしょう。カルバマジン製剤は糸状虫専用の駆虫薬ですが、塩酸レバミゾールやイベルメクチン製剤は他の線虫類(肺虫、胃虫等)に対しても有効です。アンチモン化合物の駆虫効果は確実ですが、肝機能や腎機能への副作用があり、慎重に使用する必要があります。 駆虫の実施間隔は15日間隔が最適ですが、腰麻痺の発生があまりない状況なら、1カ月に1度でも十分予防効果が期待できます。
また、夏期には羊の近くで牛を飼わないことを心がけ、牛の頭数が少ないなら、牛に駆虫薬を投与することも良い方法です。この他、羊舎内に蚊取り線香を使用することや、水槽や糞尿槽など蚊の発生源にふたをしたり殺虫剤を撒くことで、感染の機会を減らすことができます。
指状糸状虫に感染しているかどうかは、血液検査で調べることができます。ただし、1度の検査で子虫が検出されないからといって、感染していないという確証にはならないことに留意して下さい。
駆虫薬を定期的に投与していても腰麻痺の症状が出る例はあります。でも、予防をしない場合に比べたら、その頭数は格段に少なくなりますし、症状も軽くて済みます。この夏の飼養管理計画に腰麻痺の予防を加えることをお勧めします。計画を立てる際には、蚊の出始める時期から駆虫を始めるようにして下さい。濃厚感染してしまった羊に急な駆虫薬を投与すると、大量の虫体が死滅することによってショックを起こし、死亡することがあるからです。
もし腰麻痺の症状がでたら・・・・・・
万一、症状が出たときには、できるだけ速やかに駆虫薬を投与します(用量は予防の時の1〜1.5倍)。1回ないし数日間の連続投与で虫体は死滅しますので、症状の改善がみられないからといってそれ以上に続けて投与することは無駄です。
快復の可能性は、脳脊髄神経の損傷の程度によりますが、機能回復には時間がかかることが多いので、一般状態を良好に保つよう手厚い看護を心がけることです。水や栄養分を充分に摂取できるよう配慮し、鼓張症や感染症の併発に気をつけましょう。褥創の防止のためには、乾燥した敷料を用意して定期的に体勢を変えてやります。時には吊り上げて立たせたり、支えながら歩かせてやることは機能の回復を助けます。
なお、腰麻痺のように政行や起立困難、麻痺症状などを示す病気としては、四肢の外科疾患、リステリア症、ケトーシス、熱射病、低カルシウム血症などがあります。適切な治療を施すためには、これらの病気との鑑別が必要です。
| 腰 麻 痺 の 予 防 薬 |
| 種 類 |
成 分 名 |
商 品 名 |
発売元 |
用 法 |
用 量 |
休薬
期間 |
| カルバマジン製剤 |
クエン酸ジエチル
カルバマジン |
動物用スパトニン
錠(200mg) |
田辺製薬 |
内服 |
体重10kg
につき1錠 |
5日 |
動物用スパトニン
注射液(50cc) |
皮下注射 |
体重10kg
につき1cc |
| レバミゾール |
塩酸レバミゾール |
リベルコールL |
武田薬品 |
内服 |
体重10kg
につき0.75g |
7日 |
レバミゾール
「コーキン」−100 |
コーキン化学 |
| イベルメクチン製剤 |
イベルメクチン |
アイボメック注 |
塩野義製薬 |
皮下注射 |
体重10kg
につき0.2cc |
40日 |
| アンチモン化合物 |
グルコン酸アンチ
モンナトリウム |
アンチリコン
100mg注 |
理研畜産化薬 |
皮下注射 |
体重10kg
につき1cc |
30日 |
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