社団法人
畜産技術協会



シープジャパン1995年7月号(15号)
羊乳のススメ追録
有限会社松山農場 柳生 佳樹


 紀元前4・5千年頃、中近東で人類が最初に乳用動物として利用したのは、ヤギでありました。次に利用したのが羊であり、牛が利用されるようになったのは、ずっと後のことであると思われます。
 しかし、現在の日本では、牛乳が乳製品の100%近くを占めています。ヤギ乳についても微々たるもので、最近は帯広市、盛岡市、水戸市でチーズや飲用ヤギ乳などにようやく利用されるようになったにすぎません。
 では、羊乳について日本の現状を見てみると、搾乳をしている牧場は皆無に等しく、もちろんチーズなどの羊乳製品もいまだ存在していません。
 しかし、日本の乳製品愛好家は、フランスの「ロックフォール」という最高級のチーズが、ラ・コーヌ種という羊の乳から製造されていることをご存じでしょうか?また、スペインのピレネー山脈の数多くの農場製チーズが、イタリアのペコリーノが、ギリシャのフェタ等の有名チーズが、すべて羊乳から製造されて、いることをご存じでしょうか?そしてイギリスでも、美味なヨーグルトとアイスクリームが、羊乳から製造されている事実をご存じでしょうか?我々日本人は、目下のところ羊の乳などはまったく自分とは無縁な食品材料としてしかとらえていません。しかし羊乳の組成分を牛乳と比較してみると、タンパク質・脂肪・ビタミン・ミネラルなどは、牛乳のそれの1.5倍〜2倍も含まれています。しかも味はまろやかで嫌味がありません(羊乳組成分表)。

羊乳の組成分

項目 羊乳 牛乳 ヤギ乳

 総固形分(%) 18.2 12.1 11.2
 蛋白質(%) 4.3 3.4 2.9
 脂肪(%) 8.4 3.5 3.9
 灰分(%) 0.83 0.75 0.79
 リボフラビン(mg/L) 4.3 2.2 1.4
 チアミン(mg/L) 1.2 0.5 0.5
 ニコチン酸(mg/L) 5.4 1.0 2.5
 パントテン酸(mg/L) 5.3 3.4 3.6
 ビタミンB6(mg/L) 0.7 0.5 0.6
 ビタミンB12(mg/L) 0.0098 0.0027 0.0007
 ビオチン(mg/L) 0.05 0.017 0.04
 葉酸(mg/L) 0.054 0.052 0.006
 カルシウム(g/L) 1.89〜1.98 1.20 1.23
 リン(g/L) 1.43〜1.57 0.92 0.90
 ナトリウム(g/L) 0.41〜0.53 0.48 0.35
 マグネシウム(g/L) 0.17〜0.19 0.22 0.13
 鉄(g/L) 0.66〜0.86 0.50 0.50
 亜鉛(g/L) 5.16〜5.54 3.50 3.29

 資料:英国フライスランド種協会  

 私達(有)松山農場では、日本で最初の羊乳製品(チーズ・ヨーグルト・バター・アイスクリーム・飲用羊乳)を製造しようと考えています。しかし牛に乳用種がいるように、世界には羊にも乳用種がいてそれらの羊は、殆ど日本にはいません。そこで私達の農場では最近、イギリスからドイツ原産のフライスランド種の羊を10頭輸入しました(編者注:平成7年2月農場着)。乳用種の羊の乳量は、そうではない他の種類の羊と比較すると4・5倍にもなります。
 毛の利用から始まり、肉の利用に至った日本の羊産業に、羊乳利用が加われば、日本の畜産業に一層厚みを増すことになるでしょう。しかも、手作りで格調高い羊文化は、一層発展していくに違いないと考えています。
 羊は、牛に比較して体重が10分の1と軽量なうえ、おとなしいので扱いやすく、子供や女性でも恐がらずに接することができます。自らの手で搾乳し、自らの手でチーズを作る。そして時間の助けを借りて3カ月後に熟成した自分好みのいろいろなチーズを味わうことができれば、さらにそこにふさわしい赤ワインがあればこれに勝る至福はないでしよう。そのような同好の士が集まって羊乳・チーズはもとより、それを使った様々な料理を楽しむ集まりがあちらこちらにでき、カルシウムを始めいろいろな必須栄養素を含んだこの食品を食べる習慣ができれば、日本人の将来の食生活により一層、華やかな彩りを添えるに違いないと期待しています。
 (編者注:(有)松山農場では平成7年4月に行政的な認可を受けて、既に羊乳及びその加工品の販売を行っています。本文32頁参照)

追  録
「チーズの王」ロックフォール
 フランス、アヴェロン県ロックフォール=シュル=スールゾン村にあるコンパレー山の洞窟で羊の乳を原料として、最低3カ月熟成されてできたチーズが「ロックフォール」と命名される。
 その昔、一人のひつじ飼いが羊の乳のチーズの上に昼食のパンを忘れて帰ったら、パンと一緒に青カビが生えたおいしいチーズになっていたという伝説はさて置き、地球上の自然が作り出した地形とその土地の気候、湿気や風の作用によって、この洞窟だけに存在するカビ(ペニシリョム・ロックフォルティ)がチーズを発酵させ、固有の香りと味、風味を作り出し「チーズの王」とまで呼ばれる珍しいチーズを生んだ。
 洞窟が作るロックフォールの特異性に気付いた生産者達は、1925年、いち早く法律でAOC(注)を確保し、それと同時にそれまで牛や山羊の乳を少量混ぜていたものを羊乳100%の生産へと切り替えた。
 羊乳4.5Lで1kgのロックフォールができる。搾乳は1日2回。1頭からは年間6〜7カ月で200Lの搾乳量、45kgのロックフォールが作られ、年間300万個のチーズが洞窟熟成庫で熟成される。
 注):AOC=その製品がその地方で正しく作られた高品質なものであることを保証する制度。
 (ロックフォール以外のこの種のチーズはブルーチーズと呼ばれる。)
参考文献:チーズ図鑑、チーズの話




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