社団法人
畜産技術協会



シープジャパン1995年10月号(16号)
羊毛の利用方法 1 −岩手県の羊毛状況−
岩手県工業技術センター繊維研究室 佐々木 陽


 1.イントロダクション
 国産羊毛に関する情報を書いて欲しいと依頼があり、さっそく送っていただいた「シープジャパン」に目を通しながら、私なりの情報提供について検討をしました。
 その結果、「羊毛の利用方法」をテーマとして、特に岩手県の地場産業である「ホームスパン」の現状をお話しながら、国産羊毛の可能性について述べることにしました。
 数回に分けて掲載する予定になっているので、今回は自己紹介も兼ねて岩手県全体の状況、並びに私が関わった国産羊毛に関する研究や、国産羊毛の印象についてお話したいと思います。

 2.なぜ岩手なのか
 岩手県が日本で唯一産地化形成に成功した、ホームスパン産業を持つ県であることは意外と知られていません。
 国策で原毛の自給体制をとらされていた時代から始まり、農村工芸、そして地場産業へと歴史を重ねたのは、日本中どの地域も同じであるのにも関わらず、岩手県のホームスパン産業だけが残っています。
 それが何故なのかという問いに答える、歴史的な経緯については後日触れるとして、手紡ぎ、手織りで作られる岩手のホームスパンが、輸出されるまでに成長してきていることを、ここで最初に認識しておいていただきたいと思います。
 と言うのは、国産羊毛に関わらず、手織りによる羊毛織物を仕事にして行こうとする、あるいは織物で地域おこしを計画している市町村、グループの人々にとって、岩手県のホームスパンの歴史は大いに参考になると思うからです。
 平成元('89)年11月、岩手大学農学部を会場に羊シンポジウム、「羊をめぐる未来開拓者の集い」が開催されました。その際に、岩手のホームスパンの歴史を紹介する機会がなかったことはとても残念でしたが、これから大いに、岩手県に対して興味を持たれる人々が出現しますことを期待したいと思っています。

 3.岩手県工業技術センター
 岩手県のホームスパン業界は、岩手県工業技術センターの中の、木工特産部が担当して技術指導を行なっています。
 岩手県工業技術センターと同様の機能を持った公の試験研究機関はどの県にも設置されていますが、もちろん繊維関係の部門がどこにでもあるわけではありません。ちなみに関東以北では青森、秋田、北海道を除いた都、県に部門、あるいは繊維試験場が設置されています。
 これらの施設は、試験研究機関とはいえ、研究ばかりをしているわけではなく、地場産業に関わるあらゆる相談を受ける体制が出来ています。例えば「村おこし事業」のような、新しい地場産業作りに関わることもまれではありません。
 良い素材がありながら、具体的な製品作りに苦慮している、あるいは商品展開が出来ないでいることがありましたら、こうした機関を利用されると良いでしょう。
 繊維の分析、織物特性の計測などの依頼試験から、設備の貸し付け、出来た製品のネーミングから販路開拓まで、幅広く相談に乗ってくれるはずです。

 4.研究テーマについて
 岩手県工業技術センターは、これまでどのような繊維に関する研究を行なってきているのでしょうか。参考までに、これまで行なってきた研究テーマから、織物関係のものだけを取り出して列記してみます。
 @ 羊毛染色による色彩管理技術に関する研究
 A 特殊糸を用いたホームスパン製品開発
 B 伸縮特性を有する特殊ホームスパン糸の開発
 C 伸縮性ホームスパンの開発
 D 伸縮性ホームスパンの商品化に関する研究
 E 織物設計システム開発研究
 同じ様なテーマ名が並んでいますが、一つの研究は数年問継続されて行なわれるのが恒例です。
 色彩管理技術以外は、「特殊糸」や「伸縮性」を問題にしてテーマが組まれていますが、これには国産羊毛の有効的な使用方法を見つけるための方法として、新しい紡糸技術を導入しようという意図が盛り込まれていました。
 8年ほど前、水溶性繊維(水に溶ける繊維)を製造しているニチビ(株)と一緒に仕事をしていたころ、旧ソ連で国内の粗悪な羊毛原料の付加価値を高めるための、技術開発が求められていることを聞きました。
 折しも、国産羊毛の有効利用を研究テーマにしていた時期だっただけに、類似した問題が世界にもあるのだと認識したものです。
 特殊糸を用いたホームスパンを簡単に説明しますと、水溶性繊維と国産羊毛をブレンドして紡糸し、整織後にお湯で水溶性繊維を溶かしてしまうもので、非常に柔らかな織物を作ることが出来ます。
 この方法を使うことで、国産羊毛の持つ粗硬な欠点を充分補えることが分かりました。
 なお、これらの詳細については次回報告します。

 5.岩手のホームスパン
 ところで、岩手県のホームスパンは、現在企業形態をとっている3社と、工房形態の2社が中心となって岩手県ホームスパン協同組合を作っています。
 生産額は約10億円と言われていますが、最近は生産量も減少しており、決して良い状況にはありませんが、メーター当たりの付加価値を向上させることで着実な需給体制を確保しています。(年度別ホームスパン生産量を参照)次に各企業の特徴を簡単に上げてみましょう。

 1)(株)日本ホームスパン
 盛岡市の南東部、東和町にあって岩手県のホームスパンの約80%を生産している企業で、婦人服を中心にデザイン物を生産しています。デザインはイッセイ・ミヤケやヨージ・山本、ヨシエ・イナバなど、世界的にもトップレベルのもあり、東和町と盛岡市にショールームを持っています。

 2)(株)みちのくあかね会
 戦後の授産事業でホームスパンを開始した歴史があり、その後昭和37年に女性だけの会社として、盛岡市に設立されました。
 伝統的な手紡ぎ、手織りの技法を伝承しており、古典的な英国式のホームスパンを作っています。

 3)岩手ホームスパンエ房
 盛岡市の若山に工房があり、主に紳士用服地を得意とした企業です。しっかりとした紡毛織物を作る技術があり、型くずれのしない伝統的なホームスパンを得意としています。

 4)中村工房
 元々は草木染めの絹織物を手がけていた工房で、ホームスパン以外の様々な織物も作っています。甘撚りの紡毛糸を使ったビッグなストールはこの工房の定番で、イッセイ・ミヤケがデザインしています。

 5)蟻川工房
 作家的な工房で規模は小さく、民芸としてのホームスパン作品を作っています。

 6.最近の話題から
 平成7年3月、米国AVL社製コンピュータードビー織り機を使って、ホームスパン技術講習会を岩手県工業技術センターで開催しました。講師は東京家政大学の修士を平成5年に卒業した高田祥子さん(北上市在)で、「織物設計におけるコンピューター利用」をテーマに、卒業研究についてお話をしてもらいました。
 このドビー織り機(16枚綜絖)は、アップルコンピューターと直接結ばれているため、コンピューターの画面上で設計された複雑な組織を、リアルタイムで織ることが出来ます。
 元々はサンプルの試織用に設計されたシステム(米国では、工場ラインに乗る前のデザインや織物の設計を、手織りの工房が担当しそれが仕事になっています)ですが、手織物産業の活性化や後継者問題への対応として、センターが購入しました。
 ちなみに、この装置は関東以北では岩手県だけにしか導入されていませんが、近い将来これらのシステムが、岩手のホームスパン産業を支えていくものと思っています。これらの詳細も後目紹介するつもりです。
(つづく)




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