社団法人
畜産技術協会



シープジャパン1996年1月号(17号)
羊毛の利用方法 2 −国産羊毛について−
岩手県工業技術センター繊維研究室 佐々木 陽


 1.国産羊毛の利用?
 「国産羊毛の有効利用」に関する問題提起と取り組みについては、これまでも様々な方法で検討が成されてきていますが、国産羊毛を必要とする考え方や状況が各々であるためか、どうもすっきりとしたデーターや結論が見い出されないまま終わってしまっているような気がします。しかも、それらの結論の多くは国産羊毛も外国産羊毛も際だった違いは見られないというものでした。
 こうした見解に到達したい気持ちは分からないでもありませんが、かと言ってその後から「国産羊毛の有効利用」が図られて、製品化が活発に行われていくかというと実際はどうでしょう。分析結果や考察がかならずしも問題解決の決定打にはなり得なかったということなのでしょうか。いまだに同じような質問が繰り返されていることも事実のようです。あるいは、問題(この部分が良く理解されていないことが多いようですが)解決の方向が、本質的なところでずれているのかもしれません。
 本出ますみ氏が「国産羊毛の可能性III」(シープジャパンNo.11、1994)で述べている文章が、これからお話する私の研究の動機ととても近いので、その一文を初めに引用しておきます。
 「とすると、羊飼いとスピナーのこれからの課題・・・・・・最上等のフリースをめぐってウンチクするばかりでなく、セカンドクラスの羊毛をいかに使いこなしていくかをヒザつき合わせて試行錯誤していく。そして3万頭の羊を個人レベルの消費、流通の中でいかに楽しく使いこなしていけるかにかかっているのではないだろうか。」

 2.岩手の国産羊毛
 工業試験場が県内産羊毛に注目し、有効利用について検討を始めたのは、岩手県住田町の岩手鉱業(株)が羊を本格的に飼い始めた頃でした。
 ところが当時(現在も状況は変わっていませんが)、岩手のホームスパンの原料はほとんど輸入毛でした。と言うのも英国式の紡毛織物を作ることで、本物の「ホームスパン」を自称していた岩手の人達は、質の良い英国産の原料を購入し、自分達のブレンド法を見い出していたのです。
 ですから、県内産の羊毛を使わねばならない必然性は、少なくともホームスパン業界にはありませんでした。もう少し正直に申し上げれば、県内産羊毛で作ったたくさんのマフラーが「するめ」のように反ってしまい、硬い物にしかならなかった苦い経験を持つ企業にとっては、県内産羊毛は興味の対象にならなかったばかりか、それこそ問題児になりかねない代物だったのです。確かに紡糸や製織に技術的な工夫がたりなかったのだと思いますが、とりあえず私の場合は、住田町のサフォークでジャケットを試作して、完成品を検討するところから始めました(昭和59年)。

 3.国産羊毛のメリット
 国産羊毛をわざわざ使ってもらうためには、まず第一に原料特性を問題にする以前のメリットを十分に活用することを考える必要があります。つまり、完璧に管理された外国産羊毛と国産羊毛を直接性能比較してみても、結果は見えています。では何をメリットとしたら良いのでしょうか。
 ここで私は国産羊毛がすべて汚毛で入手可能だということを強調したいのです。
 「ホームスパン」が羊毛そのものを織物とする技術の集大成であるとしたならば、全くダメージを受けていない原毛を最初から手にすることが出来る。そして理想的な織物を作る素材としての要素を、国産羊毛が持っているということにもっと注目すべきだと思います。
 さっそく汚毛のままカーディングして紡糸したものを織物にしてみると、確かに重くて油っぽい生なりのホームスパンが出来上がりますが、これを仕上げ加工すると、これまでになくすばらしく柔らかい織物が出来ました(昭和62年)。

 4.新しい糸を作る
 国産羊毛を使う上で紡糸技術を駆使すると意外と特徴ある糸を作ることが出来ます。たとえば手紡ぎでも、リング撚糸機を使ってもどちらでも良いのですが、目標としては出来るだけ柔らかな糸を作ることにします。
 一般に国産羊毛は粗硬で腰のない織物になりやすいと言われていますが、それをなんとか風合いの良い形に仕上げたいと考えると、どうしても柔らかな糸が必要になります。そこで水溶性繊維が登場することになります。簡単に新しい糸の作り方を説明しましょう。
 図1のa、b、Cは無撚スライバー(単繊維の集合体)で、これを合糸してZ方向に仮撚りをかけたものが2、それに水溶性繊維dでS方向に過剰の撚りをかけたものが3、さらに逆撚りをかけてカバーリングを終了した糸が4になります。この方法で作られた糸は2本の水溶性繊維(80℃のお湯で溶解します)が、無撚糸をカバーしているので、たとえ撚りがなくてもこのままの状態で織物を作ることが出来ます。もちろん織り上がった反物は、仕上げをして水溶性繊維は溶解してしますので、よこ糸にこの特殊嵩高糸(私達の呼び方です)を使った織物は、スリットで柔らかなものになります。
 さらにこの方法を利用すると図2のようなことも考えられます。3種類に染めたスライバーa'、b'、c'を同じように2本の水溶性繊維で合糸し無撚化すると、糸長方向に色相が変化する糸が出来ます。またスライバー1本を普通の紡績糸に換えて同様な撚糸をすると、無撚糸の中に紡績糸が入り込み、丁度鉛筆の芯のような構造をとった糸を作ることも出来ます。
 例えば、外見がウールで芯に綿糸が入っている、2種類の繊維の特性を持った不思議な構造の糸が得られます。
 ここまで凝る必要があるかどうかは別としても、国産羊毛をうまく使うためには、多少技術をかけて特徴ある糸を作ってみる努力は必要かもしれません。
 無撚糸は強度的に問題がありますが、組織で十分カバー出来ると思います。私はリング撚糸機でこれらの糸を作りましたが、もちろん手紡糸でも可能です。あくまでも国産羊毛を生かすための方法の一つとして提案したものですが、ちなみにこの糸で作った夏用スーツは繊維技術展(主催:中小企業庁、全国繊繊椎高分子材料研究所長賞受賞作品維工業技術協会)で繊維高分子材料研究所長賞を受賞しました(昭和58年)。

 5.再び国産羊毛の利用?
 本出さんが述べている国産羊毛の「個人レベルの消費、流通」がどの位の規模のものでお考えなのか分かりませんが、ちなみに(株)みちのくあかね会では年2回、4種類の原毛を約300kg、(株)日本ホームスパンでは3種類、約500kg購入しています。
 岩手のホームスパン企業が「個人レベル」ではないにしても、手紡ぎ手織のために供給される原毛の量が、県内だけでもかなりのものであることには間違いないようです。
 さて、前回のシープジャパンNo.16に掲載させていただきました私の記事をご覧になった方から、さっそくお電話を頂戴しました。盛岡市内の新興住宅地の公園で、草刈りを兼ねた羊の放牧をなさっている方で、ムートンの毛を漂白する方法についてという問い合わせでした。さらなる連絡をお待ちしております。
(つづく)

(岩手県工業技術センター/TEL 0196−36−1115)




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