社団法人
畜産技術協会



シープジャパン1996年7月号(19号)
羊毛の利用方法 4 −手織技術の将来性−
岩手県工業技術センター繊維研究室 佐々木 陽


 1.またまた国産羊毛?
 国産羊毛の利用に関しては、様々な方々が思いをめぐらし試行錯誤で色々提案もし、作品も作っておられるのでしょうが、今一つ「国産羊毛を使う」目的が不鮮明で、しかも利用を促す側も、いったい誰を中心に国産羊毛を使ってもらったら良いのか、将来の「羊産業」を支える消費者、織物生産者を、具体的なイメージとしてとらえているのかどうか。もしかしたら、とらえ切れていないところに、実は多くの「羊毛をめぐる問題」を解決出来ない「問題」があるかもしれない。とそんな話から今回は始めたいと思います。
 しかし、国産羊毛をとりまく現状となると、毛織物工場に流して大量に消費してもらうだけの量もなく、かといって特徴ある品質を確保するだけの自信もない。産業として考えるよりもむしろ工芸(工芸の定義はとても広範囲にあって、なかなか都合の良い言葉です)の素材として国産羊毛を取り扱いたい、あるいは地域の特産品としてのみ位置付けたいという意見も勿論あるわけですが、とりあえず今早急に考えなければならないこととして、「国産羊毛のそれで何をするのか」という視点を、もう少し具体的に考えてみる必要があるように思うのです。つまり「あるのだから使う」のではなく、「これでなければならない」という理由を積極的に考えましょうというわけです。
 「国産羊毛も外国産羊毛も際だった遠いは見られませんでした」という結論から始まり、すべてが良いことづくめの様に語られたとしても、「飼育者の理解と工夫によって好転する可能性」がまだありますので、「汚さないように羊を飼いましょう」と宣伝したとしても、誰がどこで国産羊毛を扱い、何を作り、そしてそれをどうするかという大切な部分を、曖昧にしたまま調査ばかりしていても、実は何も始まらないことを、もうそろそろ学習しても良いように思うのですがいかがでしょうか。

 2.突然こんどはN.Y.です
 わけあって昭和から平成にかけての数カ月間、セントラルパーク(マンハッタンの中心部にある公園です)の近くにアパートを借りる機会がありました。
 かっこよく言えば、世界の巨大マーケットへ情報を発信しているN.Y.(ニューヨーク)で、手織技術がどのように機能し活躍しているかを調査することを目的に出かけたわけですが、名目は「岩手県のホームスパンをより活性化するため」のヒントを探ろうということでした。「ホームスパンの活性化」といっても、羊毛にこだわってのことではなくてむしろ手織技術の将来がどうあったら良いのかを考えようという話です。
 ご存知の通り岩手のホームスパンは、すでに羊毛以外の様々な素材(絹、綿、麻、皮革、飾り糸、テープ、ファーなど)を糸にして織物を製品化しています。ですから複雑で多様な素材を使いこなしながら、手織りだけでしか作れない織物をいかにして織るか、これが産地の重要な課題となっていました。合わせて、出来るだけめんどうな作業がない、特に高齢化した作業員の負担をなくすことや、若い世代が魅力を感じる仕事(産業)となるように、職場、工場の環境作りをしたいとも思っていました。
 こうした産地の問題点を抱えてN、Y.へ赴いたわけです。では、N.Y.で何に出合ったのでしょうか。そこに登場するのが、当世はやりのコンピューターです。何とか手織りを生かした、合理的な織物を作る方法はないかと探しておりましたら、織り組織を自由にデザイン出来て、実際の織り機までを制御出来るシステムが都合良くアメリカにありました。カリフォルニアのチコに研究所があるAVLというメーカーが作っている、ドビー織り機のシステムがそれです。
 簡単に機能を説明しますと、使用する綜絖枚数、基本的なペグプラン、たて糸通し、たて、よこ糸の色相、糸の太さ、形状などが自由に入力出来ます。更に、画面上で決定された組織はすぐにドピー織り機のコントロールボックスに接続されて、デザイン通りの組織が織れるように、綜絖粋が動いてくれます。ですから、織り手はただよこ糸を打ち込むだけの作業に集中することになります。ここまで自動化されるなら、いっそのこと打ち込みも自動化させれば良いのにと、考えがちですが、手織りの特徴を生かす限りそれはちょっと無理でしょう。さて問題はこのシステムが本当に手織りの仕事に役に立つものなのかどうか、N.Y.の街ではどのような使い方をされているのかが気になるところです。
 一般的に「手織機」は手作業で物を作る人達が使う織物製作用道具だと理解されていますが、ここN.Y.ではちょっと事情が追っていました。AVLのシステムに限らず「手織」をしている工房の役目は、織物工場(力織機の工場)で実際織物を作る前のサンプリングあるいはデザインを設計図と共に直接メーカーに売ることでした。ですから沢山の織物デザインをすばやく、しかも糸の設計、染色、実際の織り見本をデータにつけて販売をしなければなりません。手織りの工房は勿論のこと、アパレルメーカーの企業室、織りのデザインスタジオ、大学の工芸課にもAVLのシステムが導入されていました。
 しかし、日本で工房サイズの織物デザイン事務所が成功した話は、あまり聞いたことがありませんので、N.Y.の状況をそのまま持ち込むことはちょっと難しいと思いますが、ただ手織技術の可能性として、「手織」をシステマチックに考えていけば、まだまだ大きな役割をはたせるものと確信をしました。ちなみにこのシステムは現在関東以北で、東京家政大学の水町先生の研究室と私の所にあるだけです。

 3.私が作ったシステム
 さてN.Y.での経験がホームスパンの活性化につながったかどうかの評価は、いずれどなたからか伺うとして、「手織」の技術的な位置付けに関して私の見解を述べておきましょう。すなわち、「手織」そのものがもっと自由に生活の中に導入されて、社会的な仕事として独立していけるものならば、たぶん国産羊毛を使う機会や術も今以上に増えるものと思っています。将来の「手織」のあり方のヒントが、たとえばコンピューターを使ったシステムの導入と関係しているものとすれば、大いにそれらに挑戦してみる価値はあります。
 とは言ってコンピューター制御の手織機は値段が高いので、おいそれとは手が出ません。そこで今使っている、ロクロ織り機を改造した自動織り機システムを作ってみたのでそれを紹介します。
 現在織物設計用のプログラムソフトは数多く市販され、入手も容易ですがいずれの場合も糸の形状、色などをシミュレーションしながら完成した織物を予想することを目的に作られているので、実際の織物を作る場合の作業はまた別に考えなければなりません。高度なプログラムが可能なシステムとは別に、従来からあるロクロ織り機を、最小のプログラム(パソコンレベルです)で容易に動作させ、しかも手織りの良さをそのまま生かして使える自動織り機の開発を目的に取り組みました。
 シングル幅のロクロ織り機を簡単な装置を用いて改良し、自動化出来るように計画を立てましたが、モデルとして40cm幅の卓上織り機(アシュフォード製)を用いました。織物設計のシステムのフローは次の通りです。
  1. 完全組織の人力
  2. 織り組織の検討
  3. 綜絖通しの検討
  4. 踏み木の結びの決定
 綜絖と踏み木を結ぶ糸の関係は4の段階で決まるので、自動織り機を持たない場合でもこの結果は利用出来ます。次に決定した組織を実際に織るわけですが、今回はパソコンのプリンターポートから設計した織物の組織点のデータを出力させ、小型の電磁弁をON、OFFしてエアーシリンダーを動かします。シリンダーの先端に綜絖粋からの糸が結ばれているので、開口するごとによこ糸を打ち込むだけで設計した織物が織られていきます。
 このシステムを用いることで、容易に織物組織を設計出来、しかも組織を織れるように綜絖が自動的に動作するため、初心者でも複雑な織物を手早く織ることが出来ます。自動化の話がきっかけとなって、手織りに興味を持つ人が増えることを期待しています。
(つづく)





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