社団法人
畜産技術協会



シープジャパン1996年10月号(20号)
羊毛の利用方法 5 −これからの羊毛加工技術を考える−
岩手県工業技術センター繊維研究室 佐々木 陽


 1.「コンビュターで手織り」?
 コンピューターを使った手織機と聞くとめんどうで、難しい、特別な装置を想像される方もおられるでしょうが、ことコンピューター(パーソナル・コンビュター:パソコンのことです)だけに関して言えば、最近はとても扱いが楽になっているので、はっきり言って昔よりも操作は簡単になっています。
 ですから、専門的な知識が一切なくても、使用するソフト(この場合、織物を設計したり、織機を作動させるためのプログラム)の扱いさえ学習すれば、誰にでもコンピューターで手織り機を自由に操作することが出来ます。
 ちなみに、アップル社製、マッキントッシュをパーソナルコンピューターとして購入するとしたならば、1.2GB(ギガバイト/ハードディスクの記憶容量)、16MB(メガバイト/内蔵記憶容量)、インターネットのモデム付きPerforma6310で218,000円。某コジマ電気ではさらに値引きしていますので、カラーのプリンターを約4万円で買ったとしても25万円も出したらおつりが来ます。しかも経理事務から表計算、顧客管理、書類を書くためのワープロソフトがついているので、使用目的である織物設計だけでなく、幅広く色々な使いかたが出来るわけです。ましてや英会話の学習から音楽、ゲームまで楽しめるとなっては言うことはないでしょう。勿論、コンピューター本体の他に、織物設計用ソフトを購入しなければなりません。

 2.インターネットのこともちょっと
 ついでと言っては何ですが、この頃新聞紙上や雑誌などで取り上げられよく耳にする、「インターネット」も実はこれらの話の延長線上にありますので、少しその当たりのこともお話します。
 インターネットとは一言で言って、パソコンを使って世界中の人々と情報交換をするシステムです。たとえば先に紹介したコンピューターが整っただけで、インターネットを始めることが出来るわけですが、まずインターネットを始める契約をプロバイダー(インターネットの接続をしてくれる企業)と結びます。基本的にはこれだけでOKです。
 たとえば米国の織物をしている工房の人たちと直接情報交換をしたいと思った時には、これまで手紙や電話、FAXを用いましたが、インターネットを使えば、好きな時間に短時間で多くの情報を即座に目的地へと送ることが出来ます。文面は相手のパソコン上にあるので、相手も好きな時間にメッセージを読むことになります。要するに電話のように相手の時間を気にすることがないのです。
 これはインターネットを利用したイーメール(E−mail)と呼ばれています。ちなみに私のメール番号は、sun@sv02.kiri.pref.iwate.jpです。私に用件のある方はここあてにメッセージを送ることになります。
 さてインターネット契約をされたならば、どうせですから自分のホームページも作ってみましょう。これは自分専用の掲示板をパソコンの中に作るようなもので、たとえば自分の工房の紹介や製品リスト、価格、販売方法などあらゆる情報を記載することが出来ます。一言で言えばパソコンを使って小さなお店を出すといった風に考えれば良いでしょう。
 世界中の人々が手織りや羊毛に関するホームページを検索すると、登録してある沢山の情報の中に、あなたの工房もリストアップされ、そこで選択されると記載されている工房やお店の情報がパソコン上に現れてきます。勿論気に入った商品があれば直接注文することも出来ます。
 という具合に、たかがパソンコンであっても織物設計から世界に向けた情報発信までやってのけるわけですから、「安価で便利なすAVL社製コンピュータードピーシステムぐれもの」であることには間違いないと思います。近い将来、日本中の羊毛関係者がインターネットを使い、情報交換のネットワークを形成することになるでしょう。その日に向けて今日から準備しても遅くはありません(世界に向けた情報発信ですから、ついでに英語も勉強しましょう)。

 3.これからの羊毛加工技術について
 「羊毛の利用方法」をテーマに4回にわたって色々書いてきましたが、5回目の今回が最後の話になります。書くネタがなくなってきたことも理由の一つですが、しばらく時間をおき、さらにレベルアップした情報を収集してから、再度登場したいと思っています。
 さて最後の話題として、「羊毛」をテーマにした研究の動向について少し触れておきます。
 情報のほとんどは、先日岩手県で行われた第28回被服材料学夏期セミナー(7/30〜8/1:日本家政学会主催)の講演のうち、「ケラチン繊維の最近の研究動向について」を発表された平安女学院短期大学、伊藤啓氏の話です。
 ちなみに私は「岩手県におけるホームスパン産業の現状と将来」について講演をしましたがここでは触れません。
 伊藤氏の講演要旨は5年に1度開催されている、第9回羊毛国際会議(昨年6/28〜7/5までイタリア北部の小都市ビエラで開催されました)の内容から、羊毛についての最近の研究動向に関するものでした。
 会議には世界26カ国、約400名の参加があり、約260編の論文が口頭またはポスターの形で発表されています。日本からも約30名が参加しました。
 伊藤氏の講演から、現在どのような方向で羊毛が考えられ、研究されているのか、特に私たちが羊毛に関わる上で将来参考になる部分を中心に内容を解説していきたいと思います。会議での発表は10区分になっていますが、主な所だけを取り上げてみます。

○ 環境関連
 会議に先立った特別講演でドイツのアーへン工大の、H.Zahn名誉教授は「現在緊急に開発が望まれているテーマとして、環境問題がある」と言い、この課題が今回の国際会議の主題であるとも述べられています。
 今回から環境関連の発表区分を新たに作ったことや、多くの発表がこの分野であったことは、地球的な環境問題と羊毛産業が多く関わっていることを意味します。たとえば、染色、精練排水処理に関するものや、塩素を用いない防縮加工、防虫剤の開発、繊維製品から人体皮膚への薬剤がどの様に影響するか、遺伝子の変異を起こす可能性があるものなのか否か、ちょっと恐ろしいテーマではありますが、環境と技術に関する発表が積極的になされています。
 汚毛を洗ったときに出る洗剤液や汚泥は、工業レベルでは勿論のこと、工房サイズでも大きな公害問題を起こす可能性があります。
 また、媒染染料や天然染料で使用される重金属塩(クロムやスズ、銅、鉄・・・・・・等)の廃水処理問題や、染めた羊毛の人体への影響も懸念されます。問題となった遺伝子への影響については、アゾ染料の分解物であるベンジジンが発ガン性物質ということで、細胞の変異を起こす可能性が指摘されています。いずれにしても、染色加工で使用する薬品類については注意を要するということです。
 また、羊毛染色の場合、pH4.5〜5(等電点付近:羊毛が水溶液中で電荷を持たないpH)で行うことが、羊毛の損傷を最小限にとどめ、その品質を最大限に保証することを、あらためて強調しています。無駄な酸の投与は環境保全も含めて、避けなければなりません。
 「環境をきれいにする羊毛」というテーマでは、羊毛のカーペットが室内の空気の浄化に役立っているという興味ある報告がなされています。100%羊毛カーペットでは二酸化窒素を24時間で300ppm(100万分の1gの単位)から16ppmまで減少させ、ホルムアルデヒド(家具や内装材の接着剤に含まれる)は4時間で400ppmから0ppmまで除去出来たと述べています。住み良い環境を作るために羊毛製品が大きく寄与しうることは、これからの「羊毛」を考える上でとても良いヒントになる様に思います。

○ タンパク質化学
 エコロジー、省エネルギーの観点からも酵素を利用した羊毛の処理技術は、今後ますます重要になると述べています。たとえばプテアーゼは防縮、風合改良、染色前処理で、リパーゼは精練や洗浄工程で羊毛の物性を損なわずに各々機能します。
 これからも私たちは、新しい技術の動向を学びながら、羊毛を正しく効果的に利用する知恵を探っていきたいものです。
(了)





PAGE TOP

(C) Japan Livestock Technology Association 2005. All Rights Reserved. CLOSE