社団法人
畜産技術協会



シープジャパン2002年1月号(41号)
飼料給与の注意点
 −反芻胃のしくみ−
家畜改良センター十勝牧場種畜第一課めん羊係長 河野 博英


 

 放牧のめん羊は発育や繁殖のステージ、あるいは草地の状態によって補助飼料の給与が必要な場合はあるものの、基本的には自らが青草を選択採食することによって必要な栄養分を摂取しています。しかし、舎飼期にめん羊が摂取する栄養は、ほぼ100%を飼育者に委ねられています。つまり、舎飼期のめん羊の健康状態は飼料の与え方やその内容によって左右されるということです。
 飼料給与で失敗をしないためには、反芻動物であるめん羊の消化のしくみやその特徴を知っておくと良いでしょう。


 1.消化のしくみ
 めん羊や牛などの反審動物の胃は、図1のように第1胃から第4胃までの四つの室に分かれています。採食された飼料は第1胃で撹拝、混合されると共に、微生物によって発酵分解され、第2胃の収縮によって再び口腔に戻されて噛み反しが行われます。これが数回繰り返され、充分に細かくされた飼料は第3胃、第4胃へと送られて行きます。
 このように第1胃は発酵タンクとして働いているわけですが、第1胃で行われる微生物による発酵こそが反芻動物の消化の特徴であり、いかにうまく発酵を行わせるかが飼料を給与するうえで最も注意をはらわなければならない点といえます。
 では、飼料は第1胃内でどのように発酵されるのでしょうか。飼料中の主な成分の消化のしくみを知っておくことは、健康なめん羊を飼育するために大いに参考になるものと思われます。

1)繊維の消化
 反芻動物が主食とする植物(粗飼料)の細胞壁にはセルロースやヘミセルロース、リグニンなど多くの繊維性物質が含まれていますが、これらの成分は消化酵素で分解することが出来ません。そこで登場するのが第1胃内に生息する微生物です。微生物はセルラーゼなどの繊維分解酵素を生産して細胞壁を分解し、細胞壁内容物を宿主である反芻動物が利用しやすくしています。また、微生物はセルロースやヘミセルロースの分解によって生じた可溶性糖類を細胞内に取り込んで発酵を行い、その結果生産された酢酸、プロピオン酸、酪酸などの揮発性脂肪酸が第1胃から吸収されます。
 このように、反芻動物は単胃動物が利用出来ないセルロースを微生物の力を借りて消化することが出来ますが、この時に働く微生物は酸性に弱いという性質があります。最も良い条件は、第1胃内のpHが6.4〜7.0の時であり、6.0以下になるとその機能は完全に停止してしまいます。また、飼料中に脂肪が多量に含まれている場合もこれらの微生物は生存出来なくなり、粗飼料の採食量と消化率が著しく低下してしまいます。

2)炭水化物の消化
 セルロースやヘミセルロースも炭水化物の一つであり、これらは構造性炭水化物と呼ばれます。また、穀類やイモ類の主成分であるデンプンなどを非構造性炭水化物といい、いずれも微生物の発酵によって揮発性脂肪酸が生産されます。しかし、デンプンを発酵させる微生物は繊維を分解する微生物とは異なる性質を持っており、第1胃内がpH5.5となっても発酵が行われます。
 デンプンの発酵では、主にプロピオン酸が生産されますが、プロピオン酸が過度に生産されると乳脂率の低下を招き、また、第1胃内のpHが5.5以下の状態になると限られた微生物しか生存出来ず、乳酸が過剰に生産され、健康を害する結果となります。

3)タンパク質の消化
 タンパク質はペプシンなどのタンパク質分解酵素によりアミノ酸とアンモニアに分解され、アミノ酸が小腸から吸収されます。第1胃の微生物はアンモニアを体内に取り込んで菌体タンパク質を合成しますが、微生物は飼料中に含まれるタンパク質だけではなく、尿素や遊離アミノ酸などの非タンパク態窒素化合物もアンモニアに分解して菌体タンパク質の合成を行っています。この菌体タンパク質は小腸でアミノ酸に分解されますが、反芻動物にとって重要なタンパク源であり、小腸に達する全タンパク質の40〜80%を占めるといわれています。
 また、飼料中のタンパク質には第1胃内でアミノ酸に分解される部分と、菌体タンパク質とともに小腸で分解される部分があります。第1胃で分解されないものをバイパスタンパク質といい、飼料中のタンパク質のうち分解されずに小腸に達する割合によって、40%以下のものを低バイパス性(大豆柏、ヒマワリ柏など)、40〜60%を中程度のバイパス性(綿実柏、アルファルファミール、トウモロコシ穀実など)、60%以上を高バイパス性(コーングルテンミール、魚粉など)に分けられます。第1胃の発達していない子羊では菌体タンパク質の合成が出来ないため、バイパスタンパク質が必要です。通常の哺乳期間であれば、母乳または代用乳からタンパク質が供給されますが、早期離乳を行う場合などは給与飼料へのバイパスタンパク質の添加が必要となります。また、成羊においても多くのタンパク質を必要とする授乳前期にはバイパスタンパク質の要求量が高くなります。
 しかし、飼料中のタンパク質のバイパス性のみを高めてもめん羊の生産性は必ずしも向上するものではありません。
 小腸に達するタンパク質は第1胃で微生物によって合成された菌体タンパク質と、その不足分を補う量のバイパスタンパク質で構成されていることが望まれます。したがって、給与飼料中には第1胃での菌体タンパク質合成に必要なアンモニアが適正に維持出来るだけの非バイパス性タンパク質や非タンパク態窒素化合物が含まれていることが重要です。


 2.消化機能を高めるためには
 以上述べてきたように、反芻動物は第1胃内の微生物の働きによって飼料中の栄養分を消化吸収しています。そして、反芻動物最大の特徴であるセルロースの消化をいかにうまく行わせるかが消化機能を高めるためのポイントであり、第1胃の酸性化を抑制し、セルロースの消化に適した環境を維持することが重要です。
 第1胃の酸性度の調節は唾液によって行われます。唾液はアルカリ性であり、採食中や反芻中に多く分泌されますが、粗飼料だけを採食している場合には第1胃はpH6月〜7.0で安定しているでしょう。しかし、栄養価は高いがガサの少ない濃厚飼料を採会した場合には、そしゃくも反芻も短時間であるため、唾液の分泌が少なくなり、第1胃は酸性に傾いてしまいます。
 粗飼料と濃厚飼料を同時に給与する場合に問題となるのは、濃厚飼料を多給した場合に第1胃が酸性化し、セルロースの分解が出来なくなるということです。その結果、飼料の消化率が著しく低下し、採食量も減少してしまいます。通常のめん羊管理では、肥育羊以外でそれほど多くの濃厚飼料を給与することはないでしょう。しかし、授乳前期の雌羊に対しては給与飼料中の濃厚飼料の比率を高める必要があります。この場合、濃厚飼料は1度に給与せず、2回に分けて与えることが望まれます。
 図2に示したように、濃厚飼料の日量は同じでも、1回で給与した場合には第1胃の酸性化が著しく、正常な状態に戻るためには長時間を要します。しかし、2回に分けて与えることで第1胃の酸性化を緩和することが出来、セルロースの消化に大きな影響を与えることはありません。
 また、濃厚飼料の多給による肥育を行う場合、第1胃の酸性化もやむを得ないことですが、急激に濃厚飼料を増給すると充分に養分を吸収することが出来なくなり、採食量も減少してしまいます。これは急激な第1胃の酸性化により、乳酸を生産する微生物が優勢となるためです。第1胃が酸性化の状態にあっても給与した濃厚飼料を消化吸収するためには乳酸をプロピオン酸に分解する微生物の存在が不可欠であり、このような微生物を増殖させるためには1週間程度かけて徐々に濃厚飼料の給与量を増やしていく必要があるのです。




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