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この20年間で、アジア地域は急速な経済成長を示してきた。特に、東アジア、南東アジアに位置する韓国、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシアはもっとも大きな変動を示してきたが、1997年以降は深刻な財政、経済的な危機に直面している。それは経済成長とともに人口増加が続き、それにともなう必要な食料の生産と供給がとどこおったことが大きな要因で、各国、ひいてはアジア地域の農業生産と拡張を続けて人口が集中を続ける都市部への食糧供給の危機に大きく関与している。このような状況の下で畜産業の果たす役割とその将来展望について考察した。
家畜は、人類の食糧資源である畜産物と皮革や毛を生産するが、農家にとっては肥料を生産し、動力源となる重要な財産でもある。アジア地域は、農業人口が高く、小規模農家が多く、その95%は家畜を飼っており、畜産物は裕福とはいえない農民にとって重要な収入源となっている。しかし、その生産は、生産性の低い在来家畜を小頭数飼育するという伝統的な様式で行われている。そのために、近年の急激な畜産物の需要増加とその流通に十分な対応ができない現状になっている。
この食糧危機を改善するために、各国では外来種を導入した在来家畜の能力の改良、近代畜産技術の導入による伝統的庭先畜産から脱皮した畜産物量産体制の確立がすすめられている。しかし、人口増加による都市化、工業の発達、農地や牧草地の拡大による自然環境の破壊の進行が著しく、在来家畜の交雑化による遺伝資源の多様性が消失するなど経済発展の結果としてそれらが問題化している。
拡大する畜産業を支える飼料穀物の確保も重要問題で、その消費拡大は世界的レベルでの穀物市場、経済動向に影響を与えている。また、不足する畜産物(アジア地域では牛肉など)は、アメリカ、オーストラリアなどの生産国からの輸入により需要をみたしてはいるが、貿易収支の上から影響を示している。
また、畜産の近代化によって、富裕層の多い都市部の食糧危機は回避されたが、途上国の農村を構成する多数の低所得の農民は貧困化が著しく進行している。そのため、農村地域における食糧危機は深刻で、特に田園地帯の子供達のエネルギー摂取量が激減し、栄養失調児が南アジア、中国、南東アジアで急増すると予測されている。
このような状況をふまえて、今後の経済予測に基づいて、アジア地域の各国は、畜産業の振興、そして食糧の確保をはかる努力が必要である。 |
序
食糧安全保障に呈す畜産の伝統的役割
アジアにおける家畜生産の変動
アジア経済危機との関係
危機の評価
穀類と家畜の需要
貿易
食糧安全保障と栄養
2000年以降のアジアの畜産とそれにかかわる社会、政治、経済上の重要問題
畜産振興ガイドラインと政治的かかわり
結論
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