米国の過去10年間は、食品安全の科学と規制において広範囲にわたる革新の時代であり、新しい生産技術、供給管理システム、検出方法、規制による取り組み、調査網の整備などにより食品供給の安全を改善してきた。本報告は米国農務省経済研究局農業経済報告No.831を翻訳したもので、米国における食肉供給の安全性を改善するための最近の動向を分析・紹介しており、新病原体検査、ハイテク設備及び供給網の管理システムから新しい監視網に至るまでの食品安全技術革新を網羅している。
例えば、ハイテク事例研究として「牛の枝肉蒸気殺菌システム:BSPS」について紹介している。牛の枝肉表面には処理行程で腸管出血性大腸菌(O157)、サルモネラ、リステリアなどの病原菌に汚染され易いが、このシステムは表面に付着した病原菌をを殺菌するために考案された新しい技術である。BSPS装置は、上部のレールに吊るされた枝肉が横側のチラー(冷凍室)に入れる直前のと畜最終ラインに設置されているステンレス製のキャビネットに収められている。BSPS装置による殺菌処理は、次ぎの3行程により行われる。(1)枝肉の表面に付着している水膜を取り除くために枝肉に圧縮空気を吹き付ける。この処理により、水膜で保護されている枝肉表面の病原菌に蒸気が直接届き、それらを完全に殺菌することができる。(2)殺菌するのに十分な温度の蒸気を枝肉の体側に必要な時間をかけて吹き付け、目標である病原菌を殺す。蒸気の温度と吹き付け時間は個々の処理場の安全設備により異なるが、一般に約88℃の蒸気を10〜15秒間、枝肉の横腹に注ぐ。(3)枝肉深部の温度上昇による色つや(鮮紅色)の変化を戻すために、最後に氷冷水を枝肉に浴びせる。
しかし一方で、米国において問題となっている“技術革新進展の最中でも民間企業の食品の(食肉)の安全性に係る技術革新への動機づけは低い”という状況にあるといえる。こうした状況を踏まえ、安全性確保のための投資を刺激する幾つかのメカニズムについても報告している。 |
米国における食品安全革新−理論と食肉産業の事例−
第 I 部 |
理論:食品安全革新の経済学 |
第 II 部 |
経験調査:食肉産業の食品安全の推進者の実態に迫る
付録A 牛肉蒸気殺菌システム革新の経緯
付録B テキサス・アメリカン・フードサービス社の革新の経緯 |
第 III 部 |
市場および規制が食品安全の改善を刺激する |
参考文献 |
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