2001年から始まったWTO新多角的貿易交渉(ドーハラウンド)の進展に向けて開催されている閣僚会議は6回目を迎え、2005年12月に香港で開催された。前回のカンクンでは合意に達せず、宣言を発表できなかったが、今回は宣言を採択できたのが最大の成果である。農業関係の宣言の主な内容は(1)2006年4月末までに貿易自由化のルールを合意する、(2)農産物の輸出補助金を2013年までに全廃する、(3)農産物の重要品目の扱いは合意が必要である、等である。
農産物の分野では、輸出補助金の全廃を巡る米国(米国が同国の農業補助金の大幅削減をするためには、先進国における農産品の関税率の大幅削減が必要としてEUを批判)とEU(農産品に関する関税率の削減等に当たっては、途上国の工業品の大幅な関税削減等が前提と主張)の交渉が主たる戦いとなり、EUが折れた。全ての農産品輸入に対する関税に上限を設けるという提案には結論が出ず、宣言からも抜け落ちた。また、先進地域が貿易における既得権利や利益を放棄することが、特に農産物貿易の分野でいかに難しいかを見せつける結果となった。
第1章の「香港農業交渉の評価」では、詳細な宣言内容と米国の立場、EUへの批判、ブラジルやオーストラリアとの関係、綿の問題等が解説されている。多くの国々でこの宣言が受け入れられるかどうかは疑問で、何らかのトップダウンによる解決が必要であろうと予測している。
第2章の「2007年農業予算における農産物価格と所得補助プログラムの改訂」では、米国では今後WTOドーハラウンドの合意事項等から、農産物価格支持、農家の所得保障への補助金等は減少せざるを得ず、現状の米国の直接支払い制度等の保障プログラムの見直しも必要となろうとしている。また、綿に対する輸出補助政策もブラジルの安価な綿の輸出を圧迫していることからも見直す必要がある等の論議や、米国の作物保険制度等の論議がWTOによる農産物貿易の自由化等との関係で詳細に述べられている。
第3章「WTO農業交渉と2007年の農業予算」では、ドーハラウンドが合意に達し、農産物貿易自由化が促進されると米国の作物作付け面積は0.3%減ないし0.1%増の影響を受けると予想している。小麦と食用穀物の価格上昇は2ないし4%、米の価格上昇は19%(日本と韓国への輸出増加による)、農家所得は3.6%減ないし6.5%増となると予想している。また、添付資料として現状での米国の所得補助政策、補助レベル、米国農務省予算の解説も詳しく述べられている。
WTOドーハラウンドと米国の農業政策の関連が詳細に検討されている貴重な資料である。 |
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