平成17年度WTO農業交渉具体的問題等対応事業(WTO等国際交渉影響評価事業)
中国の食料、農業問題等(公益社団法人畜産技術協会委託調査)
平成18年3月(社)畜産技術協会
概 要
中国は経済発展が続く一方で三農(農業、農村、農民)問題への対応が最重要政策課題の一つとなっており、また、WTO加盟後3年を経過し、加盟条件の遵守が求められている中で、FTAへの動きを加速している。このため、中国の農業・貿易政策の方向、食糧需給、農産物貿易見通し等について、経済動向等を踏まえながら、学識委員による検討を行った。この資料は5回にわたる検討会の報告書(181頁)である。
中国は国内的には市場経済化を進め、また、国際的には自由貿易の加速を行い、急速な成長を遂げて、中国の国内総生産(GDP)は世界7位となっている。しかし、国民一人当たりの所得は世界133位の低位中所得国家である。また、就業人口の47%は第一次産業に従事している。現在、中国農業は1990年代後半の食糧の生産過剰に端を発する価格の低迷、農家所得の停滞に悩んでおり、過剰農産物処理と農家所得向上対策のために農産物輸出に積極的に取り組んでいる。2001年の中国のWTOへの加盟は中国の国際競争力の弱い農産物の輸入拡大を促進する可能性が高いため、逆に中国が比較優位性を持つ農産物(野菜・花卉・果樹)の輸出を促進している。また、中国の地方政府の貧困農村振興策として、地場農産物の生産・輸出が奨励されている。2002年に発生した中国野菜の残留農薬問題へは各種の対策が取られているが、コストを圧迫する懸念もある。新たに生まれつつある大規模企業的農業経営の形成はこれまでの小農制を基調とした中国農業の生産構造を一変させる可能性を有しており注目すべき動向である。
三農問題の内、農業問題は農業の規模拡大や効率化の問題、農村問題は農村の社会管理体制及び教育・医療などの農村社会事業の問題、農民問題は農民の就業と所得の問題とみなされる。三農問題の解決のために2005年に社会主義新農村建設のスローガンが掲げられ、生産の発展、生活の充足、郷村の平穏、管理の民主化のために次の重点施策を行うこととされた。(1)農村のインフラ整備、(2)農村の総合的改革を通じた公租公課の改革、(3)食糧安保,(4)農業の発展と農村の安定のための農地管理の基本制度の堅持、(5)地域経済の発展、(6)教育、衛生等の社会事業に対する投入の増加。
本報告書は斯界の専門家による豊富な資料とデータに基づく詳細な分析がなされており、中国の食糧・農業問題の現状と課題について多くの示唆が得られる。多数の参考文献リストも整備されており、中国の食料、農業問題に興味のある方や、これに関連する事業等を推進する方には必読の資料であろう。
構 成
1.
中国農業の中期目標と農政の枠組み
東京大学教授 田嶋俊雄
2.
食糧需給と農産物貿易を取り巻く国民経済の動向
福島大学教授 菅沼圭輔
3.
食料・農業政策の動向
明治大学助教授 池上彰英
4.
中長期の食料需給予測
国際農林水産業研究センター部長 小山修
5.
食糧需給と農産物貿易の現状と見通し
国際農林水産業研究センター主任研究官 銭小平
6.
日中農産物貿易の拡大と中国における農産物生産・流通・輸出構造の再編
東京農業大学教授 大島一二