公益社団法人
畜産技術協会


平成21年度畜産をめぐる国際問題等対応調査支援事業
WTO農業協定の概要と論点
平成21年6月(社)畜産技術協会


概 要

 

 1993年にウルグァイ・ラウンド交渉が妥結してWTO(世界貿易機構)による国際農産物貿易規律が形成された。ウルグァイ・ラウンドは、WTOにサービス貿易や知的財産権の保護等の問題も取り込んだが、農業分野でも、市場アクセス、輸出補助金のみならず、EUが輸出補助金による農業支援政策から作物ごとの直接支払い政策に転換したように、加盟国の農業政策についてもWTOが規制するようになってきている点で画期的な交渉であった。

 WTOの中でも、農業協定は補助金のバインドを規定するなど、法的にみると、特殊な協定であるが、WTOドーハランド交渉が遅延する中で、貿易歪曲的な各国の制度はWTOの紛争処理手続きによって解決されるようになっている。また、その際の解釈もウイーン条約に則り厳格な文言解釈を採用しているため、ウルグァイ・ラウンドの交渉当事者の理解とも大きく異なったものとなっている。これが「WTOの司法化」と言われる現象であるが、農業関係においても重要なパネル・上級委員会で判断が行われている。本資料は、パネル・上級委員会の判断を批判的に検討しながら、WTO農業協定の内容を解説したものである。

 ウルグァイ・ラウンド農業合意は、各国の農業保護水準の上昇が世界的な農産物の過剰生産を招き、国際市場の混乱と財政負担の増加を招いたことへの反省に立ち、各国が共同で農産物貿易を歪めている諸政策(輸出補助金、輸入障壁、国内支持など)の抑制・削減を行い、これを通じて農業貿易の正常化を図っていくことを目指すものであった。WTO協定はWTO設立協定にGATT、農業協定、繊維協定、補助金協定、サービス協定等が付属するという構成になっており、WTO設立協定はWTOの組織、意思決定や協定改正の方法等について定めている。このWTO設立協定と他の多国間貿易協定(特にGATTの規定)が抵触する場合はWTO設立協定が優先する旨が規定されており、設立協定がガットや農業協定の上位法になっている。また、補助金協定と農業協定との関係は、農業協定は補助金協定の特例法の関係にあり、農業補助金については農業協定の規定が優先的に適用される。しかし、両協定に抵触があれば農業協定が優先するが、農業協定で特別の規定を定めてなければ、補助金協定が規律するというのがWTO紛争処理機関の考え方である。

 農業協定の規定は、かなり複雑な構成になっており、我が国の農業政策に重要な影響を与えるものである。本資料は、その正しい理解のために極めて有益な情報を提供しており、関係者の幅広い活用が期待されている。

 
構 成

 

はじめに

1.ウルグァイ・ラウンド農業合意

2.WTO(世界貿易機構)協定の枠組み

3.農業協定

 1)前文

 2)市場アクセス(国境措置)

 3)農業補助金総論(国内支持、輸出補助金共通)

 4)国内支持

 5)輸出補助金

 6)輸出規制

 7)農業委員会

 8)継続交渉

4.WTOの司法化の問題点―パネル・上級委員会判断の妥当性

参考文献



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