本報告書は平成7年度日本熱帯農業学会賞を受賞された柏原孝夫博士によって執筆されたものであるが、この受賞は、同博士がベトナム戦争中に、ベトナム・カント大学において農学部畜産学教授として足掛け3年水牛とアヒルを研究したことに始まり、中東調査でめん羊とヤギを熱帯資源の立場から観察し、FAO本部で"多産性熱帯羊"の資料を取得して、バルバドスブラックベリー羊の導入に成功し、それがわが国のジーンバンク事業に発展した成果が、日本熱帯農業学会で評価されたためであると考えている。
農耕の第一歩は中東にその形跡を見ることが出来るが、一方世界の産牛に対する米国畜牛開発300年の成果は称賛に値するものである。しかし、開発途上国社会では、住民と共生する熱帯動物資源は人為的改良が加えられなくても、生物資源的に無視できない存在であるばかりでなく、むしろ近代農耕に優る存在の資源と思われている。
世界の哺乳類は全体で約5,000種とされているが、その半数以上はげっ歯類で、ネズミの仲間が約1,700種あり、中南米ではネズミの仲間が多数食用に供されている。その代表は南米の豊かな湿原に生息するカピバラである。一般には、熱帯途上国の家畜資源として先ずゼブ牛を思い浮かべるが、実は大型動物よりも小型動物の方が熱帯住民に適し、自然のまま利用でき、改良の必要がなく、住民との共存関係にあるコンパニオンとなっている。このような状態が続いているのは、現在も熱帯途上国で狩猟採取時代から続いて見られる信仰、わが国の思想的伝統アニミズム(精霊が動植物・人間に宿ると考える信仰)と同様の考え方のお陰であろうと思われる。
このようなことから、著者が足跡を残した各地で得た知見を出来るだけ写真・図表をもとに集め、しかもその時々に記述してきたものを集成したものである。そのために、統計資料等は、相当古いものがあることをお断りして置きたい。
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ODA(政府開発援助)参加で出会った熱帯動物遺伝資源
1.家畜資源に占める畜牛の比率
2.中東は家畜開発のホームランド
3.アジア太平洋地区は野牛のホームランド
4.南米は21世紀の農業を支配する
5.熱帯途上国で栄える馬科動物資源
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