社団法人
畜産技術協会


平成11年度 めん羊山羊生産物利用促進事業
山羊生産物利用実態調査報告書
(山羊乳生産利用・山羊関係情報)
平成12年3月 社団法人 日本緬羊協会 会長 豊田 晋


山羊関係情報

1.世界の山羊
 1) 世界の山羊飼養頭数

 世界の山羊飼養頭数は年々増加しており、平成10(1998)年現在の総頭数は約7億頭で、その95%はアジア、アフリカ及び南アメリカに分布している。アジアでは、中国、インド、パキスタン、バングラディッシュ、イランの順に頭数が多い。
 2) 山羊の主な品種
現在、山羊の品種は約216種とされており、用途別では乳用種、肉用種及び毛用種に分けられるが、地域によっては肉用種でありながら毛や皮などの副産物も利用され、肉・毛皮兼用種として位置付けられるものもある。
 (1)乳用種
 @ザーネン
 スイス西部のザーネン谷原産で、ヨーロッパ、北アメリカなど世界各地で飼養されている。被毛は白色であり、無角が遺伝的に優性であるが、有角のものもみられる。肉髯をもつものや欠いているものがあり、乳量は年間500〜1,000kgである。
 Aトッゲンプルグ
 スイス東部のトッゲンブルグ谷原産で、ヨーロッパ、北アメリカなど世界各地で飼養されている。被毛は全体的に暗褐色であるが、鼻梁、耳の周囲、四肢及び尾端に自斑が見られる。角は有角または無角で、肉髯をもつものや欠いているものがあり、乳量は年間600〜800kgである。
 Bアルパイン
 スイス、フランスのアルプス地方原産で、ヨーロッパ、北アメリカなど世界各地で飼養されている。プリティッシュ・アルパイン及びフレンチ・アルパインが代表的であるが、近年、アメリカン・アルパインが作出されている。被毛は褐色、淡褐色、黒色、灰色あるいは白色を基調として刺毛や黒色の背線をもつものなど多様で、有角または無角である。
乳量は年間300〜600kgとザーネンの約3分の2である。
 Cヌビアン
 アフリカ東部ヌビア地方原産で、アフリカ、ヨーロッパなどで飼養されている。アングロ・ヌピアンとスーダン・ヌビアンがあるが、ヌビアンとは前者の通称である。毛色は黒、褐あるいは黄褐を基調としてそれぞれの斑紋など多様である。無角で長い垂れ耳をもち、顔面が凸隆している。乳量は年間600〜800kg、乳脂率は4〜5%と高く、周年繁殖により泌乳期間の延長が可能である。国によっては乳・肉・皮兼用種として位置付けられている。
 Dジャムナパリ
 インド原産で、インド、東南アジアなどで飼養されている。毛色は黒、自、黄褐あるいはそれぞれのまだらなど多様である。有角で長い垂れ耳を持ち、ヌビアンと同様に顔面が凸隆している。乳量は年間250〜400kgと少ないが、国によっては乳肉兼用種である。
 E日本ザーネン
 ヨーロッパから輸入したザーネンと日本在来種との交配により作出された。被毛は白色であり、無角で肉髯をもつのが一般的であるが、有角で肉髯をもたないものもみられる。
乳量は年間400〜800kgとザーネンに比べ少ない。腰麻痺に罹りやすいのが欠点である。
 (2)肉用種
 @ボア
 南アフリカ原産であり、南アフリカ、中央アメリカなどで飼養されている。有角がほとんどで、顔面は凸隆し、耳が垂れている。体重は90〜130kgで、平均日増体量は0.15〜0.17kgである。性成熟が早く、周年繁殖化することで2年3産が可能である上、双子率も高い。
 Aスパニッシュ
 スペイン原産で、中央アメリカで飼養されている。被毛は黒色または褐色で、有角と無角がある。体重は35〜50kgとやや小柄で、脂肪の少ない赤身肉を生産することから、国によっては乳肉兼用種として位置付けられている。
 Bカンビン・カチャン(マメ山羊)
 西アジアから東南アジアへ伝播したベゾアール型肉用山羊の一つで、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、台湾などで飼養されている。大陸型(黒色)と島嶼型(褐色)があり、被毛に白斑や黒い背線をもつものもある。有角で肉髯はなく、体重は20〜40kgと小柄である。腰麻痺に対する抵抗力をもち、周年繁殖が可能である。
 C韓国在来種黒山羊
 前出のカンビン・カチャンから派生したと考えられており、韓国国内各地で飼養されている。毛色はほとんど黒一色である(80%以上)が、暗褐色もある。有角で肉髯はなく、体重は15〜20kgである。腰麻痺抵抗性を有する。
 D日本在来種トカラ山羊
 カンビン・カチャンを起源とし、鹿児島県トカラ列島原産で、鹿児島大学、鹿児島市平川動物公園、農林水産省家畜改良センター長野牧場などで飼養されているが、1955年以降、日本ザーネンの導入により雑種化が進み、トカラ列島に現存する純粋種は極めて少ない。体重は20〜35kg、被毛は淡褐色、黒色を基調として自斑や黒い背線(鰻線)があり、有角で肉髯はない。乳汁を分泌する副乳頭をもっているため、三つ子が生まれても同時哺乳が出来る。周年繁殖が可能で、腰麻痺に対する抵抗力が強い。
 E日本在来種シバ山羊
 長崎県西海岸、五島列島原産で、農林水産省家畜改良センター長野牧場、農林水産省畜産試験場、東京大学などで飼養されている。来歴はトカラ山羊とほほ同じであるが、被毛は白色がほとんどであり、有角で肉髯はなく、副乳頭をもつものもある。体重は30〜40kgとトカラ山羊よりもやや大きく、周年繁殖し、腰麻痺抵抗性を有する。
 (3)毛用種
 @アンゴラ
 中央アジア原産で、トルコ、北アメリカ、南アフリカなどで飼養されている。被毛は白色で、捻れた角をもつ。産毛量はモヘアとして1頭当たり3kg程度であり、国によっては毛肉兼用種として利用されている。
 Aカシミア
 中央アジア原産で、中国、トルコ、アフガニスタン、イラクなどで飼養されている。稔れた角をもち、毛色は白、褐、黒と多様である。長毛の下に生えるカシミア(またはパッシュミナ)は羊毛やモヘアよりも繊細で、保温性に富むが、産毛量は1頭当たり0.1〜0.5kgと極めて少ないため、高級綿毛として珍重される。
(担当 鹿児島大学農学部 中西良孝)

2.世界の山羊利用
 1)東南アジア

 インドネシアでは、土地なし小規模農家が小型の肉用在来山羊(カンビン・カチャン)。
4〜5頭を畦畔草やプランテーション下草で飼育し、婚礼や子供の教育費に充当するための貴重な現金収入源としている。マレーシアでは、ゴムや油ヤシなどのプランテーション下草の除去をめん羊や山羊に行わせることにより、全体の生産性が向上し、除草コストを40%削減出来たことが証明されている。ベトナムでは、ヌビアンをフィリピン経由で導入したり、ジャムナパリをインドから導入して山羊乳生産を行っており、牛乳アレルギーの問題をかなり解消出来ることから、山羊乳の市場評価が高く、牛乳の価格の3〜4倍で取り引きされ、収入増につながっている。
 2) アフリカ
乳牛用の大量の飼料を得ることが困難な東部地域では、1900年初頭にトッゲンプルグ、ザーネン及びアルパインを導入し、山羊乳を生産している。南アフリカではモヘア生産を行うため、アンゴラを1838年に導入し、現在ではトルコ、アメリカと並ぶ生産大国になっている。また、ボアについては過去70年間にわたって改良が進められ、アフリカ諸国、中央アメリカ、マレーシアなどで肉利用されるとともに、放牧草地において牛と混牧され、植生維持のために役利用(採食特性の利用)されている。ケニアでは、牧畜民にとって貴重な薪炭林であるアカシアの一種の成長を促すため、下草や他の灌木を山羊によって制御する一方で、過放牧になると植生が減少し、砂漠化につながることが懸念されている。
 3) アメリカ
肉用山羊の流通システムが十分に確立されていないものの、テキサス州やメキシコからのスペイン系移民やイスラム系住民に根強い需要があり、スパニッシュという品種が多く飼われている。近年、南アフリカよりボアを導入して、スパニッシュとの交雑により成長及び肉量の改善を図ってきた。乳用種ではヌビアン、アルパイン、ザーネン、ラマンチャ、
トッゲンプルグ及びオベルハスリの6品種が飼われているが、それらのうち、ヌビアンが最も多い。アルパイン、ザーネン及びトッゲンプルグの平均乳量はほぼ同じである。ヌビアンはインド原産のジャムナパリ種の血を引くことから、他のヨーロッパ改良種に比べて暑さに強く、体格や肉量もやや優れており、兼用種として位置付けられている。毛生産については、専用種としてのカシミアよりも毛肉兼用種としてのアンゴラ(モヘア)への関心が大きい。また、矮小種であるナイジェリアンとピグミーは伴侶動物あるいは実験動物として用いられている。
 4) 韓国
最近、在来山羊に関心が寄せられ、その生産物は畜産食品よりもむしろ健康食品や薬膳として位置づけられている。これは山羊肉には身体を暖める効果があると古来からいわれていることによる。しかし、雄山羊がもつ独特の風味を消費者があまり好まないため、その風味由来物質の同定と除去法、調理・加工法が開発されている。その他、「黒山羊・補陽湯(ボーヤンタン)」という抽出物(4ヵ月齢未満の若雄山羊の内臓を取り除き、十数種類の薬草や海草とともに煮込んだもの)が滋養強壮・婦人病治療用として消費されている。1996年現在、在来山羊の飼養頭数は約67万頭であり、近年、山羊肉の需要は増加しているものの、生産性向上のための飼育技術の開発が立ち遅れていることから、これに関する研究の必要性が唱えられている。乳用山羊の飼養頭数は約3,800頭であり、江原道でその68%が飼育され、乳生産が盛んである。
 なお、ヨーロッパにおける利用状況については割愛したが、フランスをはじめ、ヨーロッパや地中海沿岸諸国においても山羊は乳用、肉用として垂要な家畜である。特に、フランスの山羊乳チーズは品質のよさと種類の多さにおいて世界に冠たる地位を占めている。
(担当 鹿児島大学農学部 中西良孝)

3.日本ザーネン種について
 1) 由来

 日本ザーネン種の由来は、明確ではないが、明治期にスイスやイギリスから輸入されたザーネン種を古くから九州地方で飼われていた在来山羊に累進交配して作出されたものといわれている。当初は「改良乳用種」と呼ばれていたが、昭和24年日本山羊登録協会の発足を機に「日本ザーネン種」と呼ばれるようになった。
国内の乳用山羊のほとんどが日本ザーネン種やその雑種で占められている。
 2) 特徴
 日本ザーネン種の特徴は、全身自色で耳は立ち、角は有角の個体と無角の個体が存在する。角の形はよじれないサーベル型をしている。

日本ザーネン種(雄)   日本ザーネン種(雌)

 体格は大型である。体高は雄で80〜90cm、雌で70〜80cm、体重は雄で80〜100kg、雌で60〜80kg程度(体格については、沖縄向けの肉利用もあり大型化の傾向にある。)。
 優良山羊の泌乳能カは、270日の泌乳期間で500〜1,000kg、最盛期には1日4へノ6kgの乳を生産する。乳脂率は平均3〜4%である。
 性質は、温順で人になれやすく飼いやすい品種である。
 3) 日本ザーネン種山羊の改良増殖
 農林水産省では、家畜改良増殖法に基づき、家畜及び鶏の改良増殖目標を定め、それを公表している。
 山羊についても、乳用種の改良目標として、@自家飲用乳としての観点から、泌乳の持続性を高めつつ総乳量の向上に努める。A繁殖性及び発育の良いものにする。B間性等不良形質の排除に努めるものとする。C体型については、体各部の均称のとれたものとし、飼養管理が容易な大きさのものにする。また、乳器の付着、形状及び質が良く、搾乳が容易なものにする。等が定められ、具体的な数値については、日本ザーネン種山羊の全国平均値をもとに定められている〔下表−(1)(2)〕。


乳用山羊(日本ザーネン種山羊)の改良目標
   (1)能カに関する目標数値            (2)体型に関する目標数値
  泌乳期間 総乳量     体高 体重
現在

目標
(H17年度)
248日

250日
532kg

580kg
現在

目標
(H17年度)
85cm

87cm
76cm

77cm
83kg

89kg
63kg

67kg
         注:24ヵ月齢時のもの

※注)
 日本ザーネン種は、雌の間性個体の出現率が高いといわれている。しかし、雌の間性と無角との間には深い関係があり、無角個体同士の交配を避ければ雌の間性が出現することはない(雄の陰睾は別の遺伝子が働く)。
4)日本ザーネン種の現状
山羊の頭数については、平成9年2月1日現在の農林水産省畜産統計によると、全国でおよそ28,500頭が飼われており、やや減少傾向から横ばいで推移している。その中で、農林水産省畜産局家畜生産課の平成10年度の調べによる空け2歳以上で、日本ザーネン種といわれている個体は、4,000頭程度と報告されている。飼養頭数の減少に伴い、登録頭数は総体的に減少傾向である。登録業務は家畜の改良を進める上で重要なことであり、純粋な個体を登録して、積極的に改良に役立てることが今後の日本ザーネン種の普及に重要な事項である(登録業務は、日本緬羊協会で実施している。)。
(担当 家畜改良センター長野牧場 名倉義夫)

4.日本の在来種山羊
 1) 起源

 家畜山羊の主たる超源は、西アジアの山岳地帯に生息する野性のベゾアールヤギ(bezo−ar goat:Capra aegagrus)である。本種は雌雄ともに有角で、角は弓状で後方に曲がり、毛色は夏は黄褐色、冬は灰褐色をしている。その後家畜化されたベゾアールヤギは、東に向かって中央アジア、インド、モンゴルと中国の全域に、また西に向かってアラビア半島、アフリカ大陸、ヨーロッパ大陸へと遊牧民によって広められた。東に延びた集団には、アフガニスタン北部、ヒマラヤ山西部に生息する野性のマルコールヤギ(markhor goat:Capra falconeri)が交雑され、またアフリカへ延びた集団には同じく野性のアイベックスヤギ(Ibex goat:Capra ibex)が交雑されて、それぞれの地方の在来山羊の基礎を作り上げたとみられている。マルコールヤギは角がらせん状によじれ、毛色は褐色で、特に肩から首にかけての毛は長く伸びて波状に縮れている。ヨーロッパにおける山羊の起源は定か
でないが、ヨーロッパへ延びたベゾアールヤギが、大型の野性のヨーロッパ・ノヤギ(prisca goat:Capra prisca)と交雑されて、現在の乳用のヨーロッパヤギが作られたと推定される。
 日本列島には野生山羊が生息した形跡はなく、わが国にいつ頃、どのような経路で家畜山羊が渡来したかは明らかではないが、わが国の家畜山羊は、約700〜800年頃に中国、韓国並びに東南アジアから伝わったと推定されている。特にこれらの地域と早くから交易のあった沖縄県、長崎県、鹿児島県等の九州南西部に、肉用の小型山羊が導入され、しだいに繁殖、普及されて、現在の日本在来種(トカラ山羊、シバ山羊など)が作られたと推定されている。なお現在では、沖縄、奄美諸島の在来種山羊はザーネン種との交雑化が進み、純粋の在来種はほほ絶減したと思われる。
 2) トカラ山羊
 鹿児島県鹿児島郡十島村(トカラ列島)に古くから飼育されてきたもので、その地名をとってトカラ山羊と俗称されている。明治27(1894)年にトカラ列島を訪ねた笹森氏によって、宝島と小宝島ですでに山羊が飼育されていたことが確認されているが、それ以前トカラ列島において山羊の飼育がいつ頃から開始されたかは明らかではない。またどのような経路で山羊がトカラ列島に入ってきたのか、その由来も明らかではないが、約700、800年頃に交易のあった東南アジアから流球諸島を経由して渡来したものと推定される。体格は小型で、体重は雌20〜25kg、雄25〜35kgである。体質強健で粗放な管理によく耐え、腰麻痺に村する抵抗カも強い。繁殖旺盛で周年繁殖し、1年2産も可能である。毛色は黒、褐、茶の有色に白の斑紋が入るなど種々雑多で、有角、副乳頭を有し、肉質はない。泌乳期間90日で泌乳量25〜100kgと少ない。本種は古くから肉用に供されてきたが、明治以降ザーネン種との交雑が進み、その純粋種は激減して、現在ではトカラ列島の一部の島に残存するにすぎない。
 3) シバ山羊
 長崎県西部海岸地域と五島列島に古来飼育されている日本在来種山羊はシバ山羊の名で呼ばれているが、このシバ山羊は沖縄、奄美諸島及びトカラ列島の日本在来種山羊とはおそらく来歴を異にするもので、朝鮮半島より由来したものと推定されている。本種はトカラ山羊と同様に、小型で有角、周年繁殖が可能であるが、毛色は自色である。成山羊の体重は15〜28kg、体高は40〜50cmである。近年、実験動物としての有用性が注目されている。
 4) 在来系雑種
 主として日本在来種と日本ザーネン種の交雑種で、体格は在来種より大きく、両種の中間タイプを示す。体重は雌で30kg前後である。被毛は白色が多く、有角、肉髯を有するものが多い。体質強健で腰麻痺にも強く、飼いやすい。現在、沖縄、奄美諸島及びトカラ列島で飼育されている肉用山羊は本種が大半を占めている。
(担当 鹿児島大学農学部 萬田正治)

5.山羊乳の栄養学的特徴
 1) 山羊乳の組成

 牛乳と類似した組成であるが、これまでに報告されている値を比較すると、品種、飼育環境あるいは飼料等の影響を受けやすいようである。それらをまとめると全固形分9.81
〜21.50%、脂肪2.29〜7.76%、タンパク質含量2.20〜5.00%、乳糖含量3.71〜6.30%、灰分0.63〜1.00%とばらつきが大きい。ヨーロッパ原産の山羊を熱帯で飼育すると脂肪含量が低い乳を生産することが報告されている。また、矮性山羊の乳は、他の品種と比較して、全固形分、脂肪、乳糖含量が高い。
 2) 山羊乳成分の化学的性質
 (1)タンパク質

 山羊乳中のタンパク質含量は、一般的に、牛乳のそれよりやや高く、人乳と比較すると2倍程度である。山羊乳タンパク質は、牛乳同様、非常にアミノ酸バランスが優れており、ヒトにとって優良なタンパク質源である。山羊乳も、牛乳と同様カゼイン型乳汁であるが、全窒素に占めるカゼイン態窒素の割合(カゼインナンバー)は70〜76と牛乳に比較してやや低い。カゼインの分離は30℃、pH4.2〜4.3で行うのが最良とされている。また、アルコール安定性は低く、大抵のものは70%アルコールで凝集する。牛乳と比較して、小さなカゼインミセルの割合が多く(山羊乳:80nm以下、牛乳:平均150nm)、カルシウム、無機リンを多く合む。山羊乳のカゼインは、牛乳と同様、αs−、β−、κ−カゼインより構成されているが、αs−カゼインは少なく(全カゼインの25%程度)、αs2−カゼインの割合が多い。牛乳中では主要なαsl−カゼインは山羊乳中に含有されない。そのため、チーズ製造時に用いられる凝乳酵素、レンネットによる凝固時間は短いが、カードは軟弱である。山羊乳の主要なカゼイン成分はβ−カゼイン(全カゼインの60%)で、ミセルの安定化において重要な役割を果たしている。乳清タンパク質としてはβ−ラクトグロブリン、α−ラクトアルプミン、血清アルブミン、免疫グロプリン、ラクトフェリン、葉酸結合タンパク質などの存在が確認されている。β−ラクトグロプリンは、牛乳と同棟に、162残基のアミノ酸により構成されているが、アルカリ性電気泳動では牛乳β−ラクトアルプミンと比較して移動度が遅い。山羊乳α−ラクトアルプミンは、牛乳では存在するメチオニンを欠損しており、全体で12残基のアミノ酸に差異がある。また、種々の生物活性をもつことが知られているタウリンを牛乳の約20倍、人乳とほぼ同じレベル含有している(362μmol/l)ことが報告されている。
 (2)脂質
 山羊乳は他の乳と比較して脂質含量が高いことが報告されている.その脂質構成は、牛乳のそれとよく似ており、大半はトリグリセリドである。山羊乳の総脂質中脂肪酸の組成は短鎖〜中鎖脂肪酸(炭素数4〜12)が全脂肪酸の20〜30%であり、牛乳と比較して多く、特にカプリン酸(炭素数10)は著しく多い。このことは特異な山羊乳におい(風味)に寄与していると考えられる。他方、人乳には比較的多量に含有されているリノール酸などの高度不飽和脂肪酸については、牛乳と比較すると若干高いものの、山羊乳中の含量も多くはない。脂肪球は、牛乳と比較して、小さなものの割合が高い(山羊乳:平均3.5μm、牛乳:平均4.6μm)。リン脂質含量は30〜40mg/100mlで、その60%前後は乳脂肪球皮膜に存在すると報告されている。コレステロール含量は10〜20mg/100mlで、牛乳と同レベル含有されている。また、山羊乳中のコレステロールはほとんどが遊離の状態で存在している。
 (3)その他の成分
 山羊乳に含有される炭水化物はほとんどが乳糖で、その含量は、牛乳と比較して、同量かわずかに少ない。
 山羊乳は、特に人乳と比較して、カルシウム、リン、カリウムなどのミネラル含量が高い。この高いミネラル含量やタンパク質含量のため腎溶出負荷量(Na+、K+、Cl−、タンパク質による浸透圧に相当)が人乳の約2倍(220mOsm/l)となり、特に腎機能の未発達な乳児に与える場合には、希釈するなどの配慮が必要となる。
 また、牛乳と同様、山羊乳はビタミンA1及びビタミンB2の供給源として優れている。山羊乳中のビタミンAはプロビタミンAであるβ−カロテンではなく、ピタミンA1そのものであるレチノールとして乳中に存在している。このため、牛乳と比較して、山羊乳は特徴的な自色を呈する。他方、ビタミンB6、B12、オロト酸(ビタミンB13)、及び葉酸含量は牛乳と比較して低い。
 ホスフアターゼ含量は牛乳よりも低く、さらに45℃付近で失活するのでホスフアターゼ試験は有効ではない。キサンチンオキシダーゼ量も非常に少なく、リパーゼ活性は牛乳の3分の1程度であり、その他の酵素活性も低い。
 3) 山羊乳に期待される健康維持作用
 (1)優れたタンパク質源

 山羊乳の特徴としては、その消化性のよさが挙げられる。消化性のよさは直接的にタンパク質源としての優秀さにつながる。一般に動物の消化管は、タンパク質のような巨大な分子が通過せず、アミノ酸あるいは数個のアミノ酸からなるペプチドのみが吸収される。
タンパク質からペプチドあるいはアミノ酸への分解は胃及び膵臓より分泌されるタンパク質分解酵素により行われる。山羊乳の易消化性は、山羊乳がαs1−カゼインを遺伝的に欠損していることに起因している。すなわち、ヒト胃内の酸により形成される酸カード(酸により形成されるチーズ様のカゼイン凝集物)が非常に軟らかく、その後のタンパク質分解酵素による消化を受けやすいため、乳タンパク質中のアミノ酸の吸収が非常によい。
 (2)アレルギーとの関係
 αs1−カゼインは牛乳アレルギー発症の際の主要なアレルゲンタンパク質の一つである。
上述したとおり、山羊乳はぽs1−カゼインを含んでいないため、牛乳αs1−カゼインによるアレルギーを発症している患者に村する代替乳としての利用が期待される。山羊乳中にも含まれるもう一つのアレルゲンタンパク質であるβ−ラクトグロプリンについては、具体的な報告例はないものの、構成アミノ酸の組成が牛乳のそれとは異なっていることが電気泳動などの結果から推察される。そして、その構造の違いのため、牛乳β−ラクトグロブリンに由来するアレルゲンと同じ構造をもつペプチドが山羊乳β−ラクトグロプリンからは生成しない可能性が示唆される。
また、山羊乳タンパク質をアレルゲンとするアレルギーの発症は非常に少ないという報告もなされている。この点については山羊乳の消化性のよさがアレルギー発症を低くしている原因と推察される。しかし、詳細は未だ明らかにはされていない。
 (3)その他
 牛乳と同様に、山羊乳も吸収されやすい形でカルシウムを多量に含有している。骨粗鬆症への関心からミネラルの摂取不足が社会問題となっている昨今、山羊乳は良質のミネラル源となり得ると思われる。
 上述したように、山羊乳脂質は短鎖〜中鎖脂肪酸を多く含有している。低級脂肪酸を結合したトリグリセリドは消化・吸収がよいことが知られており、特に低栄養時には非常に効率のよいカロリー接取源となり得る。他方、必須脂肪酸であるリノール酸、リノレン酸については、その含量は牛乳よりも若干多いものの、充分な摂取源とはいいがたい。しかし、リノール酸の位置・幾何異性体である共役リノール酸が山羊乳やその加工品中に多く合まれていることが報告されている。共役リノール酸は発ガン抑制因子あるいは体脂肪減少因子として注目されている脂肪酸であり、山羊など反芻獣の第一胃内微生物により合成されることが明らかになっている。
 また、タウリン含量が高いこともある種の生理作用が期待出来る要因の一つである。タウリンは、ヒトの体内では肝臓で酵素的に合成されるアミノ酸代謝産物であり、胆嚢を経て消化管内に分泌され脂質の消化・吸収に重要な役割を果たしている。乳幼児はタウリンの合成能力が未熟であるため、小児栄養での重要性が指摘されている。また、ネコやキツネにおいては必須栄養と位置付けられており、欠乏した場合には視党障害や心筋症を引き起こすことが明らかになっている。タウリンが、ヒトの生体内においても、ネコやキツネでみられるような生理作用を有している可能性が示唆されており、現在、世界各国において精力的に研究が行われている。それらの研究のなかでも注日されているのが、糖尿病に対する効果である。どのようなメカニズムで調節されているかについての結論は出ていないが、末梢組織での血糖の利用性を高めることで、血糖を低下させる作用があることが各国の研究者により報告されている。
(担当 宮崎大学農学部 河原聡)


6.沖縄の山羊料理について
 流球諸島は仏教による肉食禁止の影響を受けず、また食糧生産環境は非常に厳しく、かつ肉資源の乏しい島嶼環境下で、肉用家畜を余すことなくすべて食い尽くすという食文化が形成され今日に至っていると思われる。
 山羊肉は、豚肉、牛肉、鶏肉、魚肉のように日常の献立の中で利用するのでなく、山羊肉を中心にした特別な独立した食体系を形成している。例えば家の棟上げ式、新築祝い、親類縁者が集まる機会、部落の行事や祭り、農繁期や遠洋に出漁する前の滋養強壮用、選挙の支持者同士の集い、島民が島を出るとき、島に帰るとき等を祝い食される。大きな山羊汁鍋を囲んで大勢で食べることからイベント用料理ともいえる。
 他方、薬膳料理(ヒージャーグスイ:山羊薬)としても山羊汁は食べられてきた。体が芯から温まるといわれ、冷え症、喘息、打撲、気力体カが低下したときなど、また安産を願って出産2週間前に食べたり、産後は体力回復のため食べることもある。
 山羊の屠殺法は、放血後、稲ワラ、チガヤ、サトウキビの枯れ葉などを全身に被せ毛を焼き、素早く毛を擦り落とす。焼けた短い毛が体に残らないよう上手に焼き、皮はキツネ色に焼き上げるのがコツである。現在では、火カはガスバーナーを用いている。焼いた山羊は水道水を流しながら全身をタワシで擦って洗う。次に開腹し、内臓を取り出す。先ず第一に胆嚢を胆汁液がこぼれないように注意深く取り除く。その後それぞれの臓器を取り出す。
 最も手間と時間がかかる仕事は、小腸と大腸から内容物を取り出した後、においが残らないように腸壁を何度も洗い落とすことである。腸の洗い方は適当な長さに切断し、料理用の菜箸のような細い棒で腸をひっくり返し、内容物を出し、洗い流す。その後、海水や塩・酢を用いて腸をもみ水洗する操作をにおいがなくなるまで繰り返すことが大切である。最後の仕上げに米ヌカかメリケン粉でもみ水洗する場合もある。なお、屠場で大量に処理する場合は、小型セメントミキサーや洗濯機などを用いて腸を洗浄している。

 山羊肉の利用法と料理法を述べると下記のようになる。
 1) 山羊汁
 最も一般的な食べ方が山羊汁である。骨付き肉を皮付きのままぶつ切りにし鍋に入れ、さらに腸、肝臓、肺などの諸臓器を加え、1頭丸ごと大鍋で汁炊きにする。長時間煮込み、大鍋を囲みながら山羊汁を碗に取り、各自の好みで塩と薬味のショウガやヨモギを加え食べる。つまり、爪、角、毛以外はすべていただくのが沖縄における山羊肉の利用法である。

 2) 刺身
 キツネ色に焼けた皮付きの腿、肩、脇腹などの肉を薄切りにし、タレに付けて食べる。
タレは醤油か酢または酢醤油、それに薬味としてニンニクやショウガなどを好みに応じ添える。なお、山羊は肉用家畜の中で枝肉歩留まりが最も低く、取引形態が骨付きであるため刺身用肉を取りすぎると山羊汁用の肉がなくなる。そのため山羊刺しが観光客向けに大々的に宣伝出来ない弱点となっている。

 3) チーイリチャー(血液入り山羊料理)
血液は大切な食材の一つである。屠殺時の放血の際、血液を客器に採っておくと凝固するのでそれを適当に切って山羊汁に入れる。また、山羊肉や臓物を柔らかくなるまでゆでた後、取り出し食べるのに適する大きさに切り、それに凝固した血液を混ぜ揉み炒める。それらにさらに葉野菜類や根菜類などを適当に加えて炒める場合もある。

 4) 山羊炒め
山羊肉にニンニクの葉、人参、大根、キャベツ、自菜、その他の野菜等を加え炒め、塩や醤油などで味付けする。さらに薬味としてニンニク、ショウガ、ヨモギなどを加えて炒める。

 5) 山羊雑炊
山羊汁のスープに、ご飯、山羊肉少々、ヨモギ、ショウガ、塩を加えた雑炊である。さらに桑の葉を加える場合もある。

 6) 山羊の玉ちゃん
睾丸の刺身である。上記の刺身のように皮をキツネ色になるまでガスバーナーで焼き薄切りにし、上述の刺身のタレに付け食べる。
 7) 食品業者による製品の開発
 @山羊汁のパック:上記の山羊汁をパックにし、温めれば手軽に食べられるようにしてある。よりよい味を求め、差別 化を計るため各業者は添加する素材をそれぞれ創意工夫している。この製品は山羊料理の中で最も広く普及してい る商品の一つである
 A山羊うどん:丼様アルミ容器に山羊汁パック、うどん又は沖縄そばパック、薬味パックがそれぞれ入っている。食べ る際、温めて食べる。
 B寿司用山羊肉:脂肪分の少ない肉を薄切りにし、寿司のネタとして用いるために開発された山羊肉である。
 C山羊肉スモーク:山羊肉を焼き肉用タレに浸した後、煙で蒸し、さらに炭火で焼き作っている。
 D山羊カレー:カレー用の肉としては牛、豚、鶏が主体であるが、新しい味を求めて山羊肉を利用することによる新製 品の開発が行われている。
 E山羊の串刺し:山羊肉を串刺しにし、タレを付け、炭火で焼く。山羊肉はかたいため高圧釜で炊いた後に味付け加 工すると柔らかく仕上がる。
 Fにおいのない山羊汁:従来山羊汁は山羊独特のにおいを香りとして食してきたが、若い世代は、成長してから山羊 汁を食べることを体験するため、山羊のにおいが気になる。
 そのため山羊汁にレモングラスを入れたり、においをとる工夫がされている。
 
 山羊汁の食文化を守り山羊を振興するには、子供のときから山羊料理に慣れ親しみ食べることが最も重要である。絶やしてはならない食文化は学校給食への導入を検討してはいかがでしょうか。また、出来るだけ多くの人に山羊料理がふる回れるようイベント会場の一角には山羊汁の大鍋を準備してはどうであろうか。
(担当 琉球大学農学部 新城明久)
 


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